MQLセミドライ加工システム-Minimum Quantity Lubrication-
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技術論文
セミドライ加工の実際的活用法
切削油(クーラント)の現状
地球温暖化防止京都会議において取りまとめられた京都議定書に基づき、先進各国の温暖化効果ガスの削減目標が割り当てられた。日本においては、エネルギー消費量の約50%を産業分野がしめているため、産業分野におけるエネルギー使用の合理化や環境負荷の低減が求められている。特に、工作機械は全国で約70万台が稼動しており、その消費エネルギーの低減が課題といえる。
自動車メーカーのデータでは工作機械の消費エネルギーの53%が切削油(クーラント)に関するものであると報告されており(注1)、とりわけ金属加工工場の切削油を低減することが重要な課題となっている。また、切削油は最終的に金属紛を含んだ汚泥となって産業廃棄物として処理されるため、廃棄物レスの分野からも、その使用量の低減が求められている。切削油の消費量は年間13万トンといわれ、使用後の廃油にいたっては年間42万トン発生するといわれている。(注2) 環境マネージメント標準のグローバリゼーションとあいまって、切削油の問題は年々クローズアップされている。
一方、切削油に性能向上のため添加されている塩素系極圧添加剤は焼却時にダイオキシンを発生させる他、切削熱により加工作業時にもダイオキシンが発生しているのではないかと危惧されている。(注3)このため、切削油のJIS規格そのものの見直しが決定された。(注4)
こうした日本の現状に先立ち、ドイツ、北欧では切削油に対する規制が年々強化され、切削油全体に関わるコストが上昇しているため、切削油を使用しない加工方法が危急の課題として研究されている。
(注1)
「環境対応のためのドライ加工への取り組み」トヨタ自動車株式会社 井川他 日刊工業新聞社「機械技術」1999年5月号
(注2)
通産省新エネルギー・産業技術開発機構基本計画より
(注3)
毎日新聞1998年3月16日
(注4)
日刊工業新聞 2000年2月9日
セミドライ加工とは
切削油の使用をやめてしまえば問題は解決できるが、切削油を使用しなければ不可能な加工もあり、また完全なドライ化は工具寿命や精度、面粗度の点で課題が多く、生産性の低下を招き、逆にエネルギー効率を落とすことになる。当面は現状よりも環境に負荷を与えない切削油の使用方法を模索していく以外にはないと考えられる。
これまでの機械設備は何百リットルもの切削油タンクを持ち、毎分数十リットルもの油剤を加工点に流していたが、これを見直し切削油の微量化と供給個所のピンポイント化を検討する必要がある。これが最少潤滑加工(微少潤滑加工)といわれる方法である。
最少潤滑加工は1時間あたり4ccから30cc程度の油剤を刃先のピンポイントに圧縮エアーとともに塗布するもので、工場の環境改善、廃油レス、電力等のエネルギー低減に寄与できる。また、切削油として、従来の鉱油系切削油に代わり、植物油脂を採用することで、人体に無害で、環境負荷の少ない生分解性のある切削油に切り替えることが可能となる。
弊社は11年前にアメリカの航空宇宙産業で使用されていた植物油による微少潤滑加工法を日本に導入し(写真1)、日本の工場に紹介してきた。当初は環境問題というよりも、切削油を使用できない分野に適応された。しかし、マシニングセンタやNC旋盤は自動工具交換装置(ATC)やタレットがついているため、加工点が移動し、外部ノズルによって加工点のピンポイントを追うことができないため適応ができなかった。
1997年弊社が、複雑な配管系にミストを通すことのできる装置「エコブースタ」を開発し、工具の内部を通して工具先端から油剤を塗布できるようになった(写真2)。
現在は、外部給油装置3機種、内部給油装置3機種を標準化し、さらに加工内容や機械設備に適したカスタムメイド給油装置を製造し、セミドライ加工のニーズに対応している。
写真1 FKタイプ外部給油用給油装置 | 写真2 ブルーベエコブースタ 内部給油用給油装置 | ||
切削油消費量 | 4~8cc/時間 | 切削油消費量 | 2~10cc/時間 |
作動エアー圧力 | 4~10kgf/cm2 | 作動エアー圧力 | 4~10kgf/cm2 |
使用エアー量 | 60リットル/分 | ||
オイルポット容量 | 300c/950cc/1.9L/4.5L | オイルポット容量 | 1200cc |
給油機本体からノズルまでの ホース長さ |
3m(10mまで延長可能) |
セミドライ加工の実用性
大量の切削油は、環境問題や廃棄物問題を除けば多くのメリットを持っており、それをごく微量にまで低減することは簡単なことではない。単にクーラント供給装置をミスト給油装置に置き換えるというだけではセミドライ加工を実現することはむずかしい。
切削油の効果には、潤滑、冷却、穴加工時の切り屑排除、被削材周辺からの切り屑の除去運搬といった効果があるが、セミドライ加工は、このうちの潤滑を担っている、潤滑性の高い切削油を刃先にかけ、磨耗を防止すると同時に熱発生を抑え、工具への熱伝達を減少させる。
ミストエアーによる強制冷却効果はクーラントにはおよばないが、量によってはエアーの冷却力も侮ることはできない。しかし、被削材周辺からの切りくずの除去に限っては、クーラントの質量に比しエアーの力は弱く、 機械設備側での工夫が必要不可欠である。その意味で、切り屑対策を真剣に考えて設計された機械設備が待望される。
セミドライ対策を講じた機械の一例として、日立精機のCS20旋盤が上げられる。CS20は、チャックが下を向いているため切り屑の排出が容易であるばかりでなく、機械が熱の影響を受けにくいようにステンレス二重構造の急傾斜機内カバーを設け、切り屑をコンベアに落としている。
また熱を持った切り屑をいち早く機外に搬出するために4倍速チップコンベアを採用している。このようなセミドライ対応機種が登場していることは大きな進歩である。
また、工具においてもセミドライ化に対応しているものは少なく、十分な選択肢があるとはいえないが、潤滑性皮膜を持ったドリルなど、ドライ化に対応した工具が登場している。旋盤工具ではセミドライ加工に適当な工具がなかったため、弊社でオイルホール付バイトを標準化した。現在、内外径、溝、突切り、ねじ等27種類130型番のバイトにミストに最適な径のオイルホールを逃げ面とスクイの両方に設け、ラインアップした。(写真3)
セミドライ加工の実現にはこうした地道な開発が必要不可欠である。
またそうしたハード面だけでなく、ソフト面でのデータ収集が重要になっている。千差万別の被削材と加工方法に対し、工具寿命、精度確保、面粗度、サイクルタイム、コストにどのような影響が出るのか、また、加工物や工具の大きさに対し「必要最少限」の油剤とはどの程度のものなのかを把握する必要があり、同時にミスト用油剤の油種、油量、エアー圧力等の選択が重要になってくる。弊社は11年の歴史とセミドライ加工システムの販売10,000台の実績により、多くのデータを収集しており、加工に関してのデータについては多くの蓄積があると自負している。
一般に最少潤滑加工では、従来の大量、高圧によるクーラント(切削油)と比較し、1.クーラントよりも効果を発揮する場合、2.クーラントと同等の効果を発揮する場合、3.クーラントよりも生産性が落ちる場合(工具寿命、精度、熱管理等)に大別できる。
また、2や3でも、加工条件や工具材種、加工方法を工夫することにより、生産性を損なわずに加工できる場合があり、そのノウハウの開発と蓄積、他の加工への応用といったソフト面での技術開発を行う段階に入っている。その意味では、セミドライ加工は、専用機から適応することが望ましい。
専用機による加工では被削材種や加工内容が絞られるため、最適条件を見つけ出しやすい。また、セミドライ加工を実施するときに、最もむずかしい加工や難削材からトライアルしようとする工場がある。しかし、弊社では最も簡単で効果を発揮しやすい加工から始め、ノウハウと経験を積み重ねた上で、より高度な加工に適応していくように勧めている。
現在、各工場におけるドライ化やセミドライ化の進捗は、上昇する切削油管理廃棄コストとドライ化のための技術開発コストとの天秤の上にある。現実の加工の中にある数多くのパラメータから、独自の技術を蓄積していくことが求められている。(表1)
(表1)セミドライ加工を実現する為に考慮すべきパラメータ
ハードウェア | セミドライ対応 機械設備 |
切り屑対策、熱対策、ミスト対応配管およびロータリージョイント |
---|---|---|
セミドライ 給油装置 |
内部給油装置・外部給油装置の選択、加工や設備に応じたカスタムメイド対応 | |
セミドライ対応 工具 |
ミスト用オイルホール径、耐熱コーティング、非親和性材種、ポケット形状 | |
セミドライ対応 ツーリング |
高回転対応サイドスルーアーバー、コレットスルー隙間スルーのミスト対応 | |
ソフトウェア (技術) |
被削材種 | ミスト切削との相性 |
加工方法 | ステップ加工、送り方向の検討、ヘリカルタップ | |
切削条件 | 発熱抑制、切り屑コントロール、 | |
工具サイズ (加工サイズ) |
オイルホールの有無(ドリル)、工具サイズに応じた油量・エアー量調整 | |
工具形状 | ミスト用オイルホール径、ミスト切削に適した工具形状(刃先およびポケット形状)、 溶着防止対策(潤滑コーティングや鏡面仕上げ) |
|
工具材種 | 耐熱コーティング、非親和性材種 | |
ミストのかけ方 | 内部給油、外部給油、内部外部併用、ミスト特性、ノズル形状、工具追従ノズルシステム | |
エアー圧力と量 | 加工内容に応じたエアー圧力とエアー量 | |
油種 | 植物油、鉱油、合成油(切削性能、安全性、生分解性、コストの比較) | |
油量 | 加工に必要な最低油量の把握 | |
問題点の 解決 |
切り屑排出 | 切り屑落下型機械設備(機内フラット面の除去、急傾斜カバー等)、エアブロー、 バキューム、プロペラツール、磁気 |
微小切り屑 (粉塵)対策 |
機内密閉、シール | |
機械設備の ミスト対応配管 |
太い配管径、弁継ぎ手類の選択、ミストの流れを阻害しないスピンドルスルー形状、 配管内壁の面粗度向上または撥油コーティング |
|
蓄熱抑制 | 切削条件の変更、工具選択、エアー圧力と量、冷風加工との共用 | |
エアー音 | エアー圧力と量の調整、防音構造、機内密閉 | |
浮遊ミスト量 | ミストコレクタや排気ダクトの設置 |
セミドライ加工の効果
弊社のブルーべシステムを導入した多くのユーザーが工具寿命の延長、コストダウン、精度向上、面粗度向上、時間短縮、生産性向上といった一次的な効果をあげている。しかし、先に述べたようにクーラントの効果は大きく、セミドライ加工がすべての被削材と加工方法でクーラント以上の効果を上げることは難しい。
注視すべきことはセミドライ加工を導入している多くのユーザーが二次的な効果をあげていることである。それは例えば、後工程での洗浄工程の省略または簡易化を達成したケース。クーラントを使用すると製品のマーキングに問題があるケース。切り屑のリサイクルに問題がある場合。クーラントを使用するとチャックやクランプに細かい切り屑が付着し製品に傷をつけるケース。クーラントによる錆の発生があるケース。ブルーベの使用により作業安全性が向上したケースなど、さまざまなケースがあるが、クーラント使用のデメリットが大きい工場がいち早くセミドライ化を達成している。これは、工具寿命の延長などの部分的効果に執着するのではなく、後工程を含め、切削油のメリットとデメリットを詳細に検討する必要があることを示している。
現在、どのような加工で適用されているか事例を紹介していこう。
ブルーベの効果を最も発揮できる分野に金型の仕上げ加工がある。金型の仕上げ加工では多くの場合ボールエンドミルを使用するが、ボールエンドミルの中心刃付近は切削速度が上がらず、超硬の切削速度領域に達しない場合が多い。ここに微量の高潤滑性切削油をかけてやることで、磨耗を防止し、同時に面粗度を向上させることができる。また、高硬度鋼においてはより大きな効果を発揮する。(グラフ1-3) また、微少径エンドミルでは、クーラントよりも倒れが出にくく、垂直精度を確保しやすい。
完全ドライ加工では加工が困難な分野にドリル加工がある。タップやリーマーといった穴加工も同様である。この分野ではセミドライ加工で加工が可能になるケースが多い。しかし、切り屑の出にくい小径ドリルを高圧の内部給油クーラントで使用している場合と比較すると、その生産性に迫ることはむずかしい。ドリル加工については、被削材の種類、径と深さ、回転と送り、ステップの有無、エアー圧力によりセミドライ化の難易度が異なる。φ4mm以下のドリルについては、オイルホールがないかまたは穴径が微少すぎてミストを刃先から出すことがむずかしく、外部給油との併用によってステップ加工せざるを得ない。またφ1mm以下の微少径ドリルについては、従来の切削油においてもステップ加工を基本としているため、ブルーべのような高潤滑油を使用することで大きな効果を上げることができる。(グラフ4)
<旋削加工>
旋削加工では全般的にはクーラントに優位性があるが、ドライ化またはセミドライ化が可能な分野である。快削鋼の外径旋削だけをとれば完全ドライ化も可能である。しかし、難易度の高い被削材ではセミドライ加工が有効であり、内径加工、溝加工、突切りにおいてはセミドライ加工の効果が期待できる。旋削加工のセミドライ化にとって最もむずかしい点は、被削材の蓄熱にある。被削材の熱膨張による精度不良を防止するため、刃先形状の選択、切削条件の選択が欠かせない。
<その他の加工>
曲げ、切断、転造といった加工分野でもブルーべは使用されている。この分野では、いかに加工点のピンポイントに微量の油剤をかけるかが重要で、既設機械の場合、ノズルの取り付け方に工夫が必要である。弊社では各種ノズルやノズル取り付け治具を用意し、複雑な機械への取り付け経験を積み重ねている。
むすび
先にも触れたが、工具をはじめとするセミドライ加工用ハードウェアーに十分な選択肢がなく、現状ではクーラント用工具を転用しているケースが多い。フジ交易では、セミドライ加工を実施しようとしている工場、工作機械メーカー、工具メーカー、ツーリングメーカー、周辺機器メーカーとの幅広い共同研究を提案している。自社工場でセミドライ加工用ハードウェアーの性能テストを行っているほか、ミストの特性に合った設計の提案も行っている。
また、セミドライ加工を実施しようとしている工場に対しては、できる限りコンサルタント的営業を心がけている。セミドライ加工の実現には、個別の機械設備と加工内容に対する吟味が必要であり、経験と実績を積んだ専門メーカーに相談することが近道と考える。フジ交易は、セミドライ加工システムの専門メーカーとして、また工具メーカーとしての切削加工のノウハウを加味し、日本のセミドライ加工を牽引していきたいと考えている。